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「杉の花粉」の独断と偏見に満ちた愛読書紹介コーナー

「杉の花粉」の独断と偏見に満ちた愛読書紹介コーナー

4人より少し賢くなりたいと思った時に

4 人より少し賢くなりたいと思った時にお勧めの本
【1】「蓮丈那智フィールドファイルシリーズ」北森鴻著「新潮文庫」
 異端にして孤高の民俗学者蓮丈那智(年齢不詳)とその助手内藤三國が挑む民俗学ミステリーです。
 東敬大学助教授の蓮丈那智が出した内藤の時の卒業試験の問題は「ラーメンの丼に浮かぶナルトについて、ガラパゴス式の進化論を、民俗学的見地から構築すると仮定する。この場合の調査方法を、自分の仮説とともに順次列挙せよ」というもの。
 その回答を蓮丈が見て「試験の答えがユニークで一定のレベルに達していた。それにあんな考え方をする学生が、素直に就職などするはずがないと思っていた。いわゆる異端の考え、だね。」(第1作目「狂笑面」より引用)
 ということで内藤が、助手として採用されたわけです。
 これだけを読むと赤川次郎氏と同じかと思われるかもしれませんが、それがどうして、きちんと民俗学をベースにしながら謎が解決されていきます。 謎解きより簡単な民俗学入門書?として興味が湧きます。
 凶笑面

 ただ、2作目の「触身仏」はちょっとレベルダウンかなと感じてます。
 触身仏

【2】「狐罠」北森鴻著「講談社文庫」
 店舗を持たず、自分の鑑定眼だけを頼りに骨董を商う「旗師」宇佐美陶子を主人公にした古美術ミステリーです。
 同業「橘薫堂」から仕入れた唐様切子紺碧碗が贋作で、プロとしての意地から意趣返しに挑む陶子。自分で贋作を作り、それで「橘薫堂」を騙し返すというわけです。
 陶子の元夫の紹介で贋作を依頼した潮見老人が蒔絵の贋作を作成する過程には、息を呑みます。
 蒔絵に時代色をつけるために老人はあるクリームを塗り込んでいた時、運悪く陶子が火傷してしまい、火膨れした親指の付け根にそのクリームを塗り込んだところ6日で完治してしまいました。
 そのクリームとは人の皮下脂肪。
 ちょっと古美術について自分が賢くなった気にさせてくれます。「冬狐堂」シリーズの第1回作品です。
 狐罠

【3】「弥勒戦争」山田正紀著「ハヤカワ文庫」
 仏陀に反逆したとされる調達(ダッタ:ダイバダッタ)を世尊とする独覚一族。その独覚の一人が主人公の結城弦。
 弥勒とは、人間の異常繁殖を抑えるために、自然が確率的に求める「能力が卓越してしまった独覚」であり、弥勒の出現により大規模な人類殺戮が起こってしまう。
 その弥勒が出現しようとしている。
 そこで、主人公結城弦とその一族が命がけで弥勒を抹殺しようと挑む物語です。
 『〈自利と他利〉のために教戒に努める者を〈菩薩〉と呼び、〈自利〉だけのために教戒に努める者を〈独覚〉または〈声聞〉と呼ぶ、〈独覚〉は独りで覚り、人を救ったりはしようとしない聖者、〈声聞〉にいたっては、たんに仏の声を聞いたものということでしかない。むろん、両者とも〈菩薩〉の下位に位し、大乗の立場からいえば外道でさえある。』
 『正定聚とは、さとりを達成することに定まっている者、邪定聚とは、さとりを達成しえないと定まっている者のことをいう。阿難尊者は知っていたのさ。〈さとり〉を得られるかどうかは、あらかじめ定まっていて、修行とは何の関係もないことを。』
 『さとりを達成するか否かは、たんに遺伝子によって決定されるにすぎない。』
 『調達も〈さとり〉を得ることができたが、同時に、それが生理的に決定されているに過ぎないことにも気づいた。そして、仏陀にその事実を告げた。その結果、仏陀は頑なに口を閉ざすようになり、失意のまま、死んでいった。一人の独覚として。』(「弥勒戦争」より引用)
 フィクションと仏教の教義が混在しており本当なの?という疑問に満ち溢れてますが、ちょっと仏教について賢くなった気にさせくれます。
 弥勒戦争

【4】「古書店アゼリアの死体」若竹七海著「光文社文庫」
 勤め先が倒産し、怪しげな新興宗教に追いかけられ、全財産を車に積み込み、葉崎市にやってきた不幸のどん底の主人公相澤真琴。
 海は仕返ししたりしないだろうと、海に向かって「バカヤロー」と叫んだ途端、水死体の第1発見者となり、海からも仕返しされてしまう。
 主人公相澤真琴が偶然?勤めることになる「古書店アゼリア」の店主前田紅子とのロマンス小説に関する問答は、かつての「カルトクイズ」を思い出させてくれます。
 相方となる五木原充巡査部長との絶妙な掛け合いの中、ロマンス小説談義が続き、殺人の謎の解決へと向かいます。
 巻尾に真贋を書き分けたロマンス小説解説があるので、ちょっと賢くなった気にさせてくれます。
 「古書店アゼリアの死体

【5】「われ笑う、ゆえにわれあり」土屋賢二著「文春文庫」
 お茶の水女子大学教授の哲学者土屋賢二氏が、思いつくまま書き綴ったエッセイ。
 とにかく一度読んでみて下さい。著者の捻じ曲がった性格と哲学者としての教養が混在して、全くわけのわからないエッセイが出来上がってしまいました。
 読後の感想は完全に2つに分かれると思いますが、大多数が感じるでありましょう怒りを込めた感想:「金返せ」といわれても「杉の花粉」は一切関知いたしません。
 「われ笑う、ゆえにわれあり

【6】「猿丸幻視行」「ダビデの星の暗号」井沢元彦著「講談社文庫」
 「猿丸幻視行」は江戸川乱歩賞を受賞した作品だけあって、文句なしに面白い作品です。
 歌人「猿丸」の正体とは?「人」から「猿」に落とされた?平安時代の職官制度に興味が湧き、思わず『有職故実(改訂版)』河鰭実英著「塙書房」を購入してしまいました。
 猿丸幻視行

 「ダビデの星の暗号」は、芥川龍之介を主人公に「伊達騒動」の悪役原田甲斐の子孫宗助から掛け軸を渡され、祖先の恥をすすいでくれと依頼され、「伊達騒動」とは何だったのか。その真実の謎に迫る、いわゆる暗号トリックです。ただ、途中でミスリーディングのために挿入される日猶同祖説には、「お前は雑誌『ムー』か!」と思わず叫んでしまいましたが。
 「わが小宮家は、先祖代々、朝廷の史博士を務めて参りました。表向きは堂上公家の方々がそういった任にあたられることになっていますが、実際は小宮家が実際の勤めを果たし、朝廷の史書の保存や管理にあたってきたのです。」とか、
 第百十一代後西天皇について「大正十五年三月六日、天皇の勅裁を持って「後西院帝」を以降「後西帝」と呼ぶことに決まり、同年九月、宮内省より内閣にその旨通牒された。以降の文献はすべてそのように訂正されている。」(以上「ダビデの星の暗号」より引用)など本当?と疑ってしまうのですが、少し歴史について賢くなった気にさせてくれます。
 ダビデの星の暗号

 ただ、惜しむらくは「逆説の日本史」など井沢元彦氏はいい気になって色々と書き連ねてますが、「杉の花粉」がお勧めするのは、この2冊だけです。

【7】高橋克彦著「写楽殺人事件」「北斎殺人事件」「広重殺人事件」「歌麿殺人事件」:「講談社文庫」
        「緋い記憶」「星の塔」:「文春文庫」、「闇から覗く顔」:「中公文庫」
 「写楽殺人事件」が江戸川乱歩賞を受賞する前後に米国の美術館で新たな「写楽」が発見され、同じような解釈がされたと世間を賑わせた作品です。
 大学助手の津田を主人公とし、浮世絵の謎に迫る上記一連の作品は読み応えがあります。「民族によって見える色が違う」ということは初めて知りました。
 ただ、津田がどうしようもなく暗い。この暗さのために一連作品4冊は一度には読めませんでした。
 浮世絵について少し賢くなった気にさせくれます。




 「緋い記憶」(直木賞受賞作)、「星の塔」は、短編集ですがエッと思う落ちが用意されていて非常に面白い作品でした。(短編集のためコメントは控えます)

 「闇から覗く顔(ドールズ)」は、」少女「怜」の身体に甦った江戸の天才人形師「泉目吉」の推理を中心に、古本屋「同道堂」店主「結城恒一郎」と「小夜島香雪」の恋愛を絡めて物語が進んでいく連作短編集です。
 「からくり」について少し賢くなった気にさせてくれます。続けてもう1冊あり、シリーズとしても楽しめます。
 闇から覗く顔
 
 他のお勧めの本と様式を変え、著者名を先に上げて作品を列挙したのは、ごく控えめに言って、『他の作品は読む価値なし。金返せ!』と「杉の花粉」は思っているからです。
 ゴーストライターを使っていたのか、才能が枯渇したのか知りませんが、惜しい人を亡くしたと思っています。(未だ生きてるって?)

【8】「あしたカルメン通りで」森雅裕著「講談社文庫」
 若きプリマ「鮎村尋深」と北大の美術講師「守泉音彦」がマリア・カラスが残した金の十字架に彼女の託した思いを探っていきます。
 「いい加減にしろ。言葉で遊ぶなんて性的不能者のやることだ。」(「あしたカルメン通りで」より引用)長々とした議論を終わらせるには最適な言葉です。
 クラッシック(オペラ)を主題とした話ですが、コメディータッチなので、この2人の今後の進展は?を気にしながら、抵抗なく読めます。
 この2人を主人公にした作品が、「椿姫を見ませんか」「蝶々婦人に赤い靴(エナメル)」とこの後2つ続くんですが、どうもこの著者は出版社と折り合いが悪いらしく絶版になっていて、「椿姫を見ませんか」は安いようですが、「蝶々婦人に赤い靴(エナメル)」などAmazonで5000円位します。
 内容についても、著者の捻くれた性格により、どうも2人の主人公を、ハッピー・エンドにはさせていないように伝聞します。(この2冊は、「杉の花粉」も読んでいません。)
 何はともあれ、「あしたカルメン通りで」だけでも、オペラについて少し賢くなった気にさせてくれます。
 

【9】「もの食う人びと」辺見庸著「角川文庫」、「夜と女と毛沢東」吉本隆明、辺見庸共著「文春文庫」
 「杉の花粉」は、辺見庸に嵌っています。
 かつて共同通信社に勤め、ベトナムでの生活や中華人民共和国から強制退去させられた経緯など、非常にアグレッシブな著者の生き方に憧れています。
 数ある作品の中から「杉の花粉」は上記2冊を独断と偏見により選びました。
 「もの食う人びと」は、世界中を廻って「ものを食う」という観点から書かれたエッセイ集です。
 〈駅前広場の屋台に入る。直径70センチほどのブリキの大皿に山盛りになったビラニ(焼き飯)とバット(白いご飯)に食欲をそそられた。〉
 〈十数円で食事ができると喜び勇んで高いほうを私は頼んだ。〉
 〈お米文化はやっぱりいい、とうなずきつつ、二口、三口。次に骨付き肉を口に運ぼうとした。すると突然「ストップ!」という叫び。「それは、食べ残し、残飯なんだよ。」たどたどしい英語が続いた。良く見れば肉にはたしかに他人の歯型もある。〉
 〈歩きながらモハメドは言った。「ダッカには金持ちが残した食事の市場がある。残飯市場だ。卸売り、小売りもしている。」
 口に酸っぱい液がどくどく湧いてきて、私はしきりに唾を吐いた。〉(「もの食う人びと」より引用)
 海外諸国の残酷な現状に著者は直面していくのですが、底辺に流れる辺見庸の暖かさに救われる一冊です。
 諸外国(主に発展途上国)について、少し賢くなった気にさせてくれます。
 もの食う人びと

「夜と女と毛沢東」は、かつて学生運動の論理的支柱であった「吉本隆明」と「辺見庸」の対談集です。
 家に篭って世界を推察する「吉本隆明」に対して自分で行動して世界を見る「辺見庸」の対談は、妙にぎこちなく感じる部分がありますが、「オーム真理教事件」や「毛沢東」などを語る二人の思考には、思わず唸ってしまう「杉の花粉」です。
 マスコミュニケーションによる一方的な事件報道に対して、多角的な見方を教えてくれますので、少し自分が賢くなったような気にさせてくれます。
 夜と女と毛沢東

 余談ですが、「吉本隆明」は自著「わが「転向」」の中で、“GNPの半分以上を家計支出が占める今の日本で、本当に国を動かす力を持つものは庶民なんだ。”と書いています。
 ある日、民放のTV番組を見ていて「日本が構造不況から脱却するためには」をテーマに対談が行われていましたが、空虚な議論の中、ある一人が「みんなが、お金を使えば景気は回復する」と発言し、冷笑される場面がありました。
 でも、不況については、マスコミュニケーションによるミスリーディングが原因だと考えている「杉の花粉」は、実はこの発言者が一番確信を突いていたのではないかと思っています。
 その判断の基礎になったのが、上記「転向」作中の「吉本隆明」の言葉でした。

【10】「隠された十字架改版」「新潮文庫」、「神々の流竄」「集英社文庫」梅原猛著
 「隠された十字架改版」は、「法隆寺」とはどういう意味を持つ寺なのかの論証に挑みます。「どうして中門の真ん中に柱があるのか」「時代が変わる度に五大寺を構成する寺が入れ替わっているのに、どうして何時の時代も「法隆寺」は五大寺に次ぐ存在なのか」など法隆寺のミステリーに挑みます。

 「神々の流竄」は、著者の説明によると“出雲神話に関する根本的疑問から、『古事記』と『日本書紀』の制作主体を藤原不比等と考え、『記紀』において語られている日本神話を律令体制にもとづく宗教改革の神話と考える仮説に到着したその過程”を詳しく語ったそうです。
 平たくいうと、何故「古代の神」は追放され、誰が権力を掌握したのかを宗教とイデオロギーの対立の観点から書いたということです。

 梅原猛は、「いろは歌」の作者は菅原道真だと発言し、「菅原道真の時代の『いろは』が47文字でないことは歴史の基本的な常識」なので、学会から相手にされなくなったことがあります。
 どこまで信じていいの?という疑問が、常に付いてまわりますが、小説として読むなら充分楽しめる2冊です。
 古代史について少し賢くなった気にさせてくれます。

【11】「天皇の影法師」猪瀬直樹著[新潮文庫]
 昭和天皇が崩御された時に、新聞で小さく「八瀬童子が柩を担ぐために宮内庁と交渉」とか「八瀬童子が柩を担ぐために上京」とか報じられていました。
 歴代に渡って天皇の崩御の際に、「柩かつぎ」など葬儀の手伝いをすることに拘る人びと「八瀬童子」について、その起源から免税など歴史の陰に隠された事実をホジクリ出します。
 また、本来「光文」であったはずの元号が、急遽「昭和」に変更されたとする謎がのこる東京日日新聞の元号誤報事件について、当時の記者から事件の顛末をホジクリ出します。
 猪瀬直樹は、独善独歩なところのある作家ですから「ノンフィクション」を標榜してますが、氏の偏向した思想が充満してますので、ちょっと本当なの?という疑問符は消えません。
 でも「天皇制」について少し賢くなったような気にさせてくれます。

【12】「ただ栄光のためでなく」落合信彦著[集英社文庫]
 幼少時代浮浪者であった主人公佐伯剛が恩人槙原の援助でUCLAに進学し、親友で後に軍人となるマイク・ケイン、後に貿易会社に勤めるユダヤ人サイモン・シラーの援助もあり無事卒業することになります。
 その卒業直前に恩人槙原が倒れたという知らせが。
 多額な入院費を稼ぎ出そうと向かったカジノで、佐伯剛の腹の座ったブラフを見て、彼に惚れ込んだプログレス・オイル社長でユダヤ人のデヴィッド・フェインシュタイン。
 内定していたイーストマンの入社式に出席はするものの新入社員の覇気のない表情に嫌気がさし、退出した剛が向かった先がインデペンデントにまで伸し上がってきたプログレス・オイル社。
 そこから剛のアメリカン・ドリームが始まります。
 社長デヴィッド・フェインシュタインの秘書として3ヶ月間世界中のオイル・マンや役人、大臣などを巡ります。
 途中、偶然出会った、石油の発見に関しては魔術師のような勘を持ち“ハンス・ザ・スメラー”と呼ばれるハンス・ニーダーマンを、フェインシュタイン社長に無断で雇い入れ、セブンシスターズ(メジャー:国際石油資本)が石油は出ないと無視していたエクアドルで石油の採掘に挑戦し成功します。
 今や時の人となった剛の狙いは、セブンシスターズに挑み、自らメジャーになることでした。
 恩人の娘にして剛の思い人幸子、そして親友のマイク、サイモンの本当の正体はなにかなどが絡み最後まで息を付く暇もありません。
 国際社会の最前線で働くビジネスマン(オイルマン)について、少し賢くなったような気にさせてくれます。

【13】「男たちの伝説」落合信彦著[集英社文庫]
 「ただ栄光のためでなく」の続編のように佐伯剛等の設定は同じですが、この本では彼は脇役にまわります。
 主人公の仁科譲二は、高級役人だった父親がスパイ事件の容疑で失脚し、妾の子と馬鹿にされる日本を飛び出し、スタンフォード大学で学びますが、退学を余儀なくされます。
 そこで、米国の市民権を獲得するためにベトナム戦争に志願します。
 ベトナムで彼を待っていたのは、“重火器を持たず、蛇などを生で喰いながら山に潜伏して、ベトナム兵を見つけ次第、素手もしくはナイフで殺していく対ゲリラ用に創設されたLRP”の一員として米国公認の殺戮者になる道でした。
 市民権を得て米国に帰国しても、不況の中、定職に就けず、レストランのボーイをして生活することになります。
 レストランでマフィアのボスと平気で渡り合う譲二に遭遇した佐伯剛。
 譲二を気に入った佐伯は副社長をしているプログレス・オイル社を訪ねるように譲二に言い残します。
 親友マイクに頼んで譲二の経歴を洗うと、最高機密だというマイクからのレポートには、譲二の父親は冤罪だが日本国は省庁が再び疑心暗鬼に陥るのを恐れて公表していない。
 また、譲二は志願兵にも関らずLRPで中尉まで昇進している。つまり最高の技術を持った殺人マシーンだったことが判明します。
 レストランを首になり、仕方なくプログレス・オイル社を訪ねた譲二に、佐伯は、そのレポートを見せ、先ず、武器売買で必要な資金を確保して、世界中から要請のある「傭兵部隊」を創るよう進めます。
 そこから譲二のアメリカン・ドリームが始まります。
 「武器商人」から「傭兵部隊」の創設、そして「イエローケーキ(ウラン)の売買」にまで手を広げた途端、極めて閉鎖的なウランシンジケートが牙を向きます。
 そこに、ロシアからの亡命者リディアとの恋愛が絡み、語が進んでいきます。
 「男たちの伝説」に比肩する、いや超える作品ではないかと「杉の花粉」は思っています。世界に暗躍する組織について、少し賢くなったような気にさせてくれます。
 「杉の花粉」は、落合信彦にハマっていた時期があります。今後も何度か落合信彦を紹介していこうと考えています。

【14】「愛と幻想のファシズム」村上龍著[講談社文庫]
  カナダで狩をしている二人の日本人。
 〈ゼロ「なあ、あのエスキモーの村で橇犬を見た時、二人で話しただろ?本当は橇しか引けないくせに、甘やかせてくれとかうまいものを食わせろとか言う奴が多すぎるって」
 トージ「ああ、いや本当は橇も引けないようなやつらなんだよ、俺に言わせるとな、生態系から外れた下等な人間達だろ?独裁者が出ないとだめだ、だまらせるか、殺すかしてくれないとだめだ。」
 ゼロ「お前がなるんだ」トージ「何だと?」
 ゼロ「トージ、お前がやつらを黙らせるんだ、俺とお前が組めばやれる」〉
 狩猟のために生きてきた主人公鈴原冬二をカリスマとする政治結社「狩猟社」が結成され、日本を代表する学者、官僚、そしてテロリストが結集していきます。
 CG技術を駆使した戦略、私兵を使った国際的な労働組合組織IUFの粉砕、粗筋の書かれた国会議事堂を占拠するクーデター計画を収める鈴原冬二。
 この独裁者に急激に魅きつけられていく国民。
〈(総選挙について討論するTV番組に出席した冬二。)
 「さっき、この選挙は何も解決しないとおっしゃいましたが、それに対して、上田先生から、選挙というのは解決の手段ではなく、解決するスタッフを選ぶものだという、まあ、原則論的な意見が出されました。」
 司会者の言葉に、俺はテレビカメラのレンズを見つめた。
 「重要なことは、今ここでこうしている間にも、この国の外貨が増えていないということなのです。
 わたし達は、飢餓と破滅に向かって一歩、一歩、確実に進んでいます、ほとんどの人は、スーパーマーケットから食料品が消えてしまわないと気が付かないでしょう、コインを入れれば何でも自動販売機から出てくるとずっと長いこと信じているからです。
 例えばエチオピアでは1980年代に人口が約三分の一に減少しました。日本でも同じことが起きるとはまだ誰も思っていません。
 そのような悲劇は前触れが何回かあって訪れるものではなく、ある日、突然に起こるのです。
 この選挙が終わって、政治スタッフが決まり、新しい政策を考える、もちろんその過程でも飢餓への進行が止まることはありません、何の解決にもならないと言ったのはそういう意味です、食べるものがあるうちは、おしゃべりはいくらでもできます、解決の手段ではなく解決を実行するスタッフの選択だなどというおしゃべりが食べられればいいんですけどね、おしゃべりはいくらでも生産可能ですが、食べられません。」〉(「愛と幻想のファシズム」より引用)
 スケールの大きさと緻密な構成に圧倒された「杉の花粉」は、一気に読み終えたものの、ただ驚くばかりで声も出ませんでした。ですから何のコメントも出来ません。
 将来の日本について考えさせられるので、自分が少し賢くなったような気にさせてくれます。
 愛と幻想のファシズム(上)
 愛と幻想のファシズム(下)

【15】「帝都東京・隠された地下網の秘密」秋庭俊著[洋泉社]
 本の帯には「なぜ、現在、市販されている二つの地図には違いがあるのか。それは単なる誤差にすぎないのか、どちらかが嘘をついているのか。
 ないはずの地下鉄がGHQ作成のインテリジェント・リポートに載っているのは何故か?
 営団公表の図面に建設されていないはずの地下鉄がなぜ紛れ込んでいるのか?
 疑惑は疑惑を呼び、たったひとつの結論に導いていく。
 戦前にすでに東京には地下網が完備していた、と。
 可能な限りの資料と徹底した地図の読みこみを駆使し、国民に伏せられてきた東京の地下網の真実に迫る!」
 正しく、その通りの本だったので、帯の表記をそのまま引用してしまいました。
 しかし正確に記すなら、「可能な限りの資料と徹底した地図の読みこみを駆使し」を「『著者の偏向した』可能な限りの資料と『著者の偏向した』徹底した地図の読みこみを駆使し」と読み替える必要があると思ってます。

 でも“「大江戸線」の壁は新しく作られたにしては、余りにも古すぎる。”
 “地下鉄「国会議事堂前」駅で交差する地図と交差しない地図がある”
など、本当?と思いながらも信じそうになる自分が怖くなります。
 帝都東京・隠された地下網の秘密

 続編で「帝都東京・隠された地下網の秘密2」がありますが、殆ど「帝都東京・隠された地下網の秘密」の焼き直しで『2』を出す意味があったのかと思わず叫んでしまいます。
 帝都東京・隠された地下網の秘密(2)

 帝都と呼ばれた頃の東京(の地下?)について、少し賢くなったような気にさせてくれます。

【16】「聖徳太子の正体」小林惠子著[文藝春秋社]
 「青い目の聖徳太子」として一部の偏向した読者には有名な本だと思います。
 一般的な「とんでもない本」と一線を画しているのは、小林惠子氏はかつて一応、東洋史の講師でありました。
 そのため、『こういった本』にありがちな「私が、こう思うから、こうなんだ。」とか高橋克彦氏のように「亀石はUFOを模したものだった。」なんて根拠不明な迷説ではありません。
 ある意味、古書の例を用いて自説を展開していく研究論文のような本ですので、「そんな馬鹿な」と思うことがいつの間にか「そうだったのかも知れない」という風に考えている自分に気が付きます。

 「これらの事実からいえるのは、元興寺の丈六仏や伊豫温泉碑などのように、時代が古いほど、つまり太子の生存時期に近いほど、太子ではなく大王という称号なのに気付かざるをえない。
 特に一番古いと目される元興寺の丈六仏にある等与刀弥弥大王は、太子の生存中と、それ以後しばらくの間、正式な太子の名称ではなかったかと推量されるのである。彼は、その名称からして、名実共に倭王だったのである。」(「聖徳太子の正体」より引用)
など思わず信じてしまいそうになります。

 しかしながら、“聖徳太子は西突厥の達頭(タルドウ)可汗だった”とか“法隆寺の夢殿は、パオだった”まできてしまうと、『ちょっと待て』と止める自分が現れますが。
 自説を論証するために非常に古書等の引用が多いので、読みにくい本ではありますが、内容が内容だけに無理をしてでも読んでしまいます。
 古代の日本を含めた中国周辺の情勢などが判ったような気にさせてくれますので、自分が少し賢くなったような気がします。

【17】「初等ヤクザの犯罪学教室」浅田次郎著[幻冬舎アウトロー文庫]
 皆さん御存知のあることで有名な浅田次郎が、実体験を基に書いている作品です。
 〈判例を知らず、新聞もテレビ面とスポーツ面しか読まぬ多くの人々は、いまだに「人を殺せば死刑になると考えがちであります。
 もちろんそれは誤りです。
 現在の我が国の刑法が死刑を適用している犯罪は、次の11項目であります。
 1.内乱罪の指揮者
 2.外国に通牒して武力を行使せしめた者
 3.外国のわが国に対する侵略に加担した者
 4.人の住む建造物、その他に対する放火
 5.人の住む建造物、その他に対する溢水
 6.交通機関を破壊して死者を出した者
 7.水道に毒物を混入して死者を出した者
 8.殺人
 9.尊属殺人
10.強盗殺人
11.強盗強姦殺人
 一見しておわかりのとおり、今日の刑法では「殺人即死刑」ではありませんが、直接間接的に殺人を犯さなければ、まず死刑になることはありません。
 前記11項目の犯罪は、条文中に「死刑」を適用していますが、そのほとんどはたとえば、「人ヲ殺シタル者ハ死刑又は無期若クハ三年以上ノ懲役ニ処ス」というふうに幅をもたせてあります。
 ということは故意に人を殺しても、事情によっては懲役三年ですむ場合もある。
 懲役三年ということは刑法二十五条により、執行猶予がつく場合もあるのであります。
 では、ここで設問。前記11項目のうち罰条に幅がなく、絶対死刑と決められているものが1つある。それはどれか。正解は、2の外患罪。〉

 〈「ひとり殺すもふたり殺すも同じだ」というのは殺人者に共通した現場での認識らしいのですが、実は全然同じではない。
 たとえば強盗に入ってたまたま居合わせたひとりを殺してしまったとする。これはほとんど死刑にはなりません。
 しかしその現場でふと「ひとり殺すもふたり殺すも同じだ」と考えて、母親の死体にすがって泣く子供を絞め殺したとすると、これはまず間違いなく死刑であります。
 つまり、ひとりは殺してもふたり目を殺してはいけないというのは、殺人者の鉄則なのであります。〉(以上「初等ヤクザの犯罪学教室」より引用)

と大変明瞭に犯罪についての「傾向と対策」を教えてくれます。
 倒産した会社に群がる「整理屋」のうち必ず誰かは行方不明になるなど、現場を知る者のみが書ける犯罪HowTo本です。
 将来のために用意しておきたい一冊です。
 犯罪について、少し賢くなったような気にさせてくれます。
 初等ヤクザの犯罪学教室

【18】「死んだ魚を見ないわけ」河井智康著「角川ソフィア文庫」
 この本の題名を見た時に、ふと、赤潮が発生したために海岸に打ち寄せられる大量の死んだ魚は見たことがあります。
 でも、それ以外に魚の死体は見たことがないなあと思わず買ってしまいました。

 著者は、研究者で「しんかい2000」を使わせてもらって、海抜何メートルの所では、誰が死んだ魚を食べるのか実証していきます。
 また、その実証に加えて、「しんかい2000」を使った実験などが、ドキュメンタリータッチで書かれており、非常に楽しめます。
 海の神秘について、少し賢くなったような気にさせてくれます。

【19】「国連憲章」
第4章 総 会
【任務及び権限】
第10条
 総会は、この憲章の範囲内にある問題若しくは事項又はこの憲章に規定する機関の権限及び任務に関する問題若しくは事項を討議し、並びに、第12条に規定する場合を除く外、このような問題又は事項について国際連合加盟国若しくは安全保障理事会又はこの両者に対して勧告をすることができる。


 パソコンを覗きこんでいた「猫神」が吃驚していました。
 国際連合の最高意思決定機関は『国連総会』だと思っていたようです。

 第10条を読むと、『総会』は、国際問題を『討議』し、『国連加盟国』や『安全保障理事会(以降、面倒なので『安保理』)』に『勧告』することができる、としか書いてありません。
 しかも、『第12条を除いて』という条件付きです。


第12条
1.安全保障理事会が、この憲章によって与えられた任務をいずれかの紛争または事態について遂行している間は、総会は、安全保障理事会が要請しない限り、この紛争又は事態について、いかなる勧告もしてはならない。


 「猫神」の空いた口が塞がりません。
 『安保理』が、紛争等の任務を遂行している間は、その紛争や事態に対して、『総会』は、いかなる『勧告』もしてはならないと書いてあります。
 『安保理』に対して『総会』は、紛争等の非常事態に『勧告』すら出来ないというのです。
 国際連合の『総会』は、余りにも無力というしかありません。


第5章 安全保障理事会
【任務及び権限】
第24条
1.国際連合の迅速且つ有効な行動を確保するために、国際連合加盟国は、国際の平和及び安全の維持に関する主要な責任安全保障理事会に負わせるものとし、且つ安全保障理事会この責任に基く義務を果すに当って加盟国に代って行動することに同意する。
2.前記の義務を果すに当たっては、安全保障理事会は、国際連合の目的及び原則に従って行動しなければならない。
 この義務を果たすために安全保障理事会に与えられる特定の権限は、第6章、第7章、第9章及び第12章で定める。

第25条
 国際連合加盟国は、安全保障理事会の決定この憲章に従って受諾し且つ履行することに同意する。


 凄い話です。
 国連憲章では、国連加盟国に対して、自国の安全保障に関する問題は、『国連』や『国連総会』ではなく、『安保理』の決定に従えと書いてあります。


第7章 平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動
第39条
 安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。

第41条
 安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わない、いかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つこの措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。
 この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。

第42条
 安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。
 この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。


 猫神』が息を呑みます。「日本人なら、想像もできないし、付いていけない!」
 彼女の発言です。
 国際紛争の解決手段は、最後は『武力』に落ち着きます。


第111条
 この憲章は、中国語、フランス語、ロシア語、英語及びスペイン語の本文をひとしく正文とし、アメリカ合衆国政府の記録に寄託しておく。
 この憲章の認証謄本は、同政府が他の署名国の政府に送付する。
 以上の証拠として、連合国政府の代表者は、この憲章に署名した。
 1945年6月26日にサン・フランシスコ市で作成した。


 『国際連合』は、第2次世界大戦終了直前に『連合国』により創設されました。
 『連合国』=『常任理事国』の「戦後世界維持体制」。
 それが『国際連合』の正体です。
 
 『the United Nations(UN)』を『国際連合』と訳するのは日本国と大韓民国ぐらいだと聞いたことがあります。
 直訳すれば、・・・・・『連合国』です。

 北朝鮮のミサイル発射のお陰?で『国連憲章』を初めて読むことができました。
 国際社会の紛争解決手段について、少し賢くなったような気がします。

【20】「君死にたまふことなかれ」与謝野晶子

ああをとうとよ、君を泣く、
君死にたまふことなかれ

末に生まれし君なれば 親のなさけはまさりしも、
親は刃をにぎらせて 人を殺せとをしへしや
人を殺して死ねよとて 二十四までをそだてしや
堺の街のあきびとの 旧家をほこるあるじにて
親の名を継ぐ君なれば 君しにたまふことなかれ。

旅順の城はほろぶとも、 ほろびずとても何事ぞ、
君は知らじなあきびとの 家のおきてになかりけり。

君死にたまふことなかれ、 すめらみことは戦ひに
おほみづからは出でまさね

かたみに人の血を流し、 獣の道に死ねよとは
死ぬるを人のほまれとは、 大みこころの深ければ
もとよりいかで思されむ。

ああをとうとよ戦ひに 君死にたまふことなかれ。

すぎにし秋を父ぎみに おくれたまへる母ぎみは
なげきの中にいたましく わが子を召され、家を守り、
安しと聞ける大御代も 母のしら髪はまさりぬる。

暖廉のかげに伏して泣く あえかにわかき新妻を、
君わするや 思へるや、十月も添はでわかれたる
少女ごころを思ひみよ、この世ひとりの君ならで

ああまた誰をたのむべき 君死にたまふことなかれ


日露戦争に召集された弟を詠んだ与謝野晶子の哀しみです。
為政者は自らは戦わず、「死ぬのを誉れと思え」とは。
 
堪らなく隣国に腹が立った時に、読み返すと考えが変わります。
何時の時代も『「為政者」のすることは同じだ』と少し賢くなった気にさせてくれます。





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